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神戸地方裁判所 昭和61年(ワ)1234号 判決 1987年12月22日

原告

関谷勝志

被告

尾野登

主文

一  被告は原告に対し、金四二九万六一九八円とこれに対する昭和六一年八月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その一を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告は原告に対し、金一二五一万三五八五円と内金一一五一万三五八五円に対する昭和六一年八月二五日から、内金一〇〇万円に対する本判決言渡日の翌日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  交通事故の発生

原告は次の交通事故によつて傷害をうけた。

(一) 日時 昭和五九年七月一一日午前七時一五分頃

(二) 場所 西宮市山口町下山口一六三七番地先交差点(国道一七六号線。以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 普通乗用自動車(神戸五九に四一三二)運転者 被告(以下「被告車両」という。)

(四) 被害車両 軽四輪貨物自動車(神戸四〇と九五九五)運転者 原告(以下「原告車両」という。)

(五) 事故の状況 原告は原告車両を運転して別紙図面<1>方向より時速四〇ないし五〇キロメートルで直進走行中、<2>付近(事故現場より約五〇メートル手前)で被告車両が右折の態勢に入つているのを発見し、注意しながら直進していたところ、<3>の地点(事故現場より約二〇メートル手前)で急に被告車両が右折し原告車両進行車線に進入せんとしたため急ブレーキをかけたが間に合わず原告車両前部と被告車両左前部が衝突した。

2  責任原因

被告は被告車両を保有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条による責任がある。

3  受傷及び治療経過

(一) 傷害の内容・傷病名

(1) 左肺挫傷・左血胸・縦隔血腫

(2) 左膝蓋骨開放性骨折・左第五中手骨基部折・顔面挫創(以下外科・形成外科)

(3) 頭部外傷Ⅰ型・頭頸部外傷(以下脳外科)

(4) 複視・左上斜筋マヒ

(5) 上室性頻拍症

(二) 治療期間

(1) 入院(関西労災病院)昭和五九年七月一一日から同五九年八月一二日まで入院(三三日間)

昭和六〇年一月二五日から同年二月五日まで再入院(一二日間)

昭和六〇年九月一二日から同年九月一八日まで再入院(七日間)

(2) 通院(関西労災病院)

A 前記傷病名(1)・(2)につき昭和五九年八月一三日から同六〇年九月三〇日まで(実治療日数一四日)

B 前記傷病名(3)につき、昭和六〇年一月一〇日から同年一二月九日まで(実治療日数一〇日)

C 前記傷病名(4)につき、昭和五九年七月一一日から同六一年三月一二日まで(実治療日数二八日)

(3) 通院(芦田外科及び神戸アドベンチスト病院)

前記傷病名(5)につき、昭和六〇年二月一〇日から現在治療中

(三) 後遺症

(1) 左下肢の醜状障害(後遺障害第一四級五号相当)

(2) 左膝部の神経症状(後遺障害第一四級一〇号相当)

(3) 顔面に著しい醜状を残し前額・左眼周辺にかけて知覚鈍麻症状(後遺障害第一二級一三号相当)

(4) 正面以外での複視(後遺障害第一四級相当)

(5) 動悸・息切れ等の発作を起す症状(上室性頻拍症)(不明)

4  損害

(一) 治療費 金二五九万九一〇八円

(内訳)

関西労災病院 金二四一万一八二八円

神戸アドベンチスト病院 金三万五一八〇円

芦田外科(昭和六一年八月六日から昭和六二年八月六日まで) 金一万八七〇〇円

高田外科 金一三万三四〇〇円

(二) 入院付添看護費 金一五万七五〇〇円

昭和五九年七月一一日から同年八月一二日まで(三三日間)及び昭和六〇年一月二五日から同年二月五日まで(一二日間)で関西労災病院に入院中のもの(一日当り三五〇〇円)

(三) 交通費 金二七万五八二〇円

自宅から病院までのバス代及びタクシー代。

(四) 入院雑費 金五万七二〇〇円

(五) 診断書代 金二万三五〇〇円

(六) 休業損害 金一一二七万〇七六一円

(1) 休業期間 昭和五九年七月一一日から同六二年九月二九日まで(三八か月と一九日)

(2) 事故時の職業及び収入

原告は昭和五六年一月から日高産業株式会社に勤務し事故当時店長代理の役職にあつて、月収一か月平均二三万六六一五円、賞与一二月に給与の二か月分相当・七月に給与の一か月分相当の収入をえていた。

(3) 算式

(236615×38か月)+(236615×19/30)+(236615×9か月)=11270761

(七) 慰謝料 金三五八万円

(1) 入通院中の慰謝料 一七〇万円

(2) 後遺障害慰謝料 一八八万円(等級一二級相当)

(八) 弁護士費用 金一〇〇万円

着手金 五〇万円

報酬金 五〇万円

(九) 損害のてん補 金六四五万〇三〇四円

5  以上(一)から(八)の合計金一八九六万三八八九円から(九)の金六四五万〇三〇四円を差し引いた金一二五一万三五八五円と次の遅延損害金を請求する。

(1) 金一一五一万三五八五円については本訴状送達日の翌日である昭和六一年八月二五日から民法所定の年五分の割合による金員。

(2) 金一〇〇万円については第一審判決言渡の翌日から民法所定の年五分の割合による金員。

二  被告(請求原因に対する認否)

1  請求原因1(一)ないし(四)の事実は認め、同(五)の事実は争う。

2  同2は認める。

3  同3の事実中、上室性頻拍症と本件事故との因果関係は否認し、その余は知らない。

上室性頻拍症とは、要するに、何等の原因なしに頻脈になるというもので、器質的に病変のあるものではなく、多くは心因性反応によるものであるから、本件事故と因果関係があるものとはいえない。

4  同4の事実中、同4(一)の関西労災病院及び高田外科の治療費の額並びに同4(九)の事実は認め、その余は争う。

原告が本件事故により休業を要した期間は長くとも抜釘のため入院した二ないし三か月後である昭和六〇年四月末日までと考えるべきである。また、原告は休業中も勤務先から事故前と同様の給与を支給されていたのであるから、原告には休業損害は発生していない。

三  被告(抗弁)

被告車両が、見通しのよい本件交差点において、先に右折しているのに、原告車両が減速しないで直進してきたため、本件事故が発生したものであるから、原告の右過失(三割相当)は、本件損害額の算定にあたつて考慮されるべきである。

四  原告(抗弁に対する認否)

否認する。

第三証拠

本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(一)ないし(四)、2の事実は当事者間に争いがない。従つて、被告は原告に対し、自賠法三条に基づき本件交通事故により生じた後記損害を賠償する責任がある。

二  受傷・治療経過及び後遺症

1  いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第一ないし第五号証、甲第八ないし第一〇号証、いずれも成立に争いのない甲第六号証、甲第七号証の一、二、甲第一一号証、乙第二号証の一ないし六、乙第三ないし第五号証、証人関谷政代の証言、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、本件交通事故により、頭頸部外傷(頭部外傷Ⅰ型)、胸部外傷(左肺挫傷、左血胸、縦隔血腫)、顔面挫創(上斜筋運動不全、下斜筋運動不全・複視)左膝蓋骨複雑骨折、左第五中手骨骨折の傷害を受け、昭和五九年七月一一日高田外科にて応急措置を受けた後、関西労災病院外科に入院して重症治療室(ICU)に収容され(同月一九日まで)、胸部外傷に対し、呼吸管理施行・保存的療法による治療を受け、同月二〇日から外科と並行して同病院整形外科の治療を受け、同月二七日左膝蓋骨骨接合術・左第五中手骨整復固定術の手術(手術時間約二時間二〇分)を受け、同年八月一二日同病院を退院した。なお、この間、同病院眼科で顔面挫創に伴う複視の経過観察治療を受けている。また、頭部外傷については、昭和六〇年一月一八日付診断書によると、「CT異常なく、頭蓋内に器質的病変を認めない。」

(二)  その後、原告は、関西労災病院整形外科(左膝・左手の骨折等の治療)、眼科左上斜筋麻ひ・複視の治療)、形成外科(顔面瘢痕の治療)に入・通院して治療を受けたが、その治療期間・手術内容等は、次のとおりである。

(1) 関西労災病院整形外科(担当 諏訪真一医師)

昭和五九年八月一三日から昭和六〇年九月三〇日まで通院(実治療日数一四日)

昭和六〇年一月二五日から同年二月四日まで一一日間入院(同年一月三〇日左膝・左手抜釘術施行。なお、後記のとおり、同入院期間中、同時に形成外科手術も行われた。)

(2) 関西労災病院形成外科(担当 谷口昌医師)

昭和六〇年一月一〇日から同年一二月九日まで通院(実治療日数一〇日)

昭和六〇年一月二五日から同年二月四日まで一一日間入院(同年一月三〇日「左上瞼瘢痕部の弁状変形があり、視野が妨げられるのでその手術と同時に、右上瞼内側の逆まつげ矯正のため」両上眼瞼形成術施行)、同年九月一二日から同月一八日まで七日間入院(同月一三日左上瞼形成術施行)

(3) 関西労災病院眼科(担当 真野富也医師)

昭和五九年七月一一日から昭和六一年三月一二日まで通院(実治療日数二八日)。顔面挫創は眼瞼に及んでいたが、前眼部・中間透光体・眼底に異常なく、左眼の上外斜視による複視の治療が施行された。

(三)  原告は、昭和六〇年二月一〇日午後六時三〇分ころ、自宅でテレビを見ていたところ、突然、動悸昴進が出現し胸部圧迫感・呼吸困難が伴つたため、救急車でアドベンチスト病院に赴き、以来、同病院には昭和六一年三月三日まで約四三日間通院して治療を受け、同年三月一一日から現在まで月に一、二度芦田病院に通院して投薬治療を受けており、現在は発作の頻度が月一回程度までに減少し、発作に対応する方法を医師から指示を受け習得したため、当初に比べ、原告の心情は安定している。両病院の医師とも右傷病名を「発作性上室性頻拍症」と診断した。

(四)  発作性上室性頻拍症は、動悸昴進が突然生じる疾患で、若年期にはじめて出現し生涯再発を繰り返すことの多い原因不明の疾患である。(多くの患者は器質的心疾患を有していない。ときに感情興奮・神経過敏・疲労・消化障害・アルコール摂取のような誘因を認めることがある)。

(五)  後遺症

(1) 左膝蓋骨骨折の傷害は、昭和六〇年九月三〇日、左膝の屈伸時の雑音(関節面ゆ合軽度不整)、筋力低下、疼痛(正座・走行ともに困難・階段昇降時に左膝の筋弱力を感じる。なお、左膝の屈曲制限はない。)、左膝手術瘢痕の後遺症を残して症状固定した。右症状の改善は期待できないわけではないが、逆に、将来的には、左膝蓋骨の変形性関節症の発症・これによる疼痛の発作が危ぐされる状態にある(左膝の後遺症は、全体として自賠法施行令別表第一四級相当と認める)。

(2) 顔面挫創により、左目の周囲に二箇所、右目の下に一箇所(四ないし七センチメートル)の瘢痕(自賠法施行令別表第一二級一三号相当と認める。)及び前額左側から左目周辺にかけての知覚純麻の後遺症が残つた。形成外科の右治療終了日は昭和六〇年一二月九日である。

(3) 左眼の傷害は、左上斜筋麻ひによる複視(右上と左下を見たときに生じ、視野が完全とはいえず、車の運転が不自由で嫌悪感がある状態。自賠法施行令別表第一四級相当と認める。)の後遺症を残して、昭和六一年三月一二日症状固定した。

2  発作性上室性頻拍症と本件事故との因果関係

前認定のとおり、同症が外傷により生じる疾患ではないこと、同症は原因不明の疾患で、多くの場合、患者に器質的心疾患のないこと等の事実によれば、同症と本件事故との因果関係は認めがたいものである。神戸アドベンチスト病院の医師作成の診断書(甲第五号証)中には、「同症と(本件事故による)左胸部打撲との関係が疑われる」旨の記載が存することが認められるけれども、右記載自体、同症と本件事故との因果関係が認められる旨の所見を記載したものとは認めがたいものであるうえ、前掲乙第二号証の四及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、関西労災病院の内科の平松医師から同症と本件事故とは関係がない旨説明を受けたことが認められること、前掲甲第六号証の一、二によれば、現在の主治医芦名医師も右因果関係が認められる旨の所見を有しているものとは認めがたいことが認められるから、右診断書の記載部分は、発作性上室性頻拍症と本件事故との因果関係を認めるに足りる資料となるものではなく、他に、右因果関係を認めるに足りる証拠はない。

3  以上のとおり、上室性頻拍症は本件事故によるものとは認めるに足らないから、右症状による治療・休業・後遺症に伴う損害はいずれも本件事故によるものとは認めるに足らないが、右症状を除く傷害の治療・休業・後遺症に伴う損害はいずれも本件事故による損害と認められる。そして、前記1認定事実を総合勘案すると、本件事故により休業を余儀なくされた期間は、昭和六〇年六月末日まで(左膝蓋骨骨折の抜釘術が同年一月三〇日になされていること、後記認定の原告の職種・職務内容からすると、リハビリの期間を考慮しても、前記上室性頻拍症の発症がなかつたならば、同年四月からは就労可能であつたものというべきであるが、その後も原告は本件事故による前記傷害、主として左眼と顔面形成の治療のため、七日間の入院治療と相当期間の通院治療をしていることが認められるから、左膝の後遺症につき同年九月三〇日症状固定との診断書のあることも総合考慮のうえ、右入院期間・実通院期間を考慮して、同年六月末日まで、本件事故により休業を余儀なくされたものと認めるのが相当である。)、右後遺症の程度は、全体として、自賠法施行令別表第一二級相当のもの、但し、後遺症の内容に照らし、その労働能力喪失率は五パーセント、労働能力喪失期間は三七年間と認めるのが相当である。

三  過失相殺

請求原因1(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがなく、右当事者間に争いがない事実に乙第一号証の二、三、六ないし九並びに原告本人尋問の結果によれば、請求原因1(一)記載の日時に、被告は被告車両を運転して本件交差点(三差路交差点)に東から西に向け進入し、右折しようとしたが、前方約四一メートルの地点に反対車線を西から東へ向け時速約五〇キロメートルで本件交差点に向かつていた原告運転の原告車両を認めたのであるから、交差点中心付近で徐行停止し、原告車両の通過を待つて右折進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、先に右折できるものと速断して、交差点入口付近から時速約一五キロメートルで右折進行した過失により、原告車両の前部に被告車両の左前部を衝突させる本件交通事故を起こしたこと、右のとおり、原告は原告車両を運転して本件交差点に向け、時速約五〇キロメートルで進行中、右折方向指示器を点灯しながら本件交差点に進入してきた被告車両を認めたが、自車の通過を待つて右折するものと考え、そのままの速度で本件交差点に向け進行したことが認められる。右事実によれば、被告の右過失が本件事故の主たる原因ではあるが、原告にも、交差点に進入する際、十分な安全を確認して進行すべき注意義務を尽くさなかつた過失があつたものというべく、損害額の算定にあたつては、原告の右過失を斟酌するのが相当である。

そして、右被告・原告の過失の内容・程度その他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると(本件事故の態様からは、その原則的過失割合は、原告二〇パーセント被告八〇パーセントと見るべきものであるが、被告には、軽度ではあるが、早回り右折ないし直近右折の加重過失が認められる。)、過失割合は、原告一五パーセント、被告八五パーセントと認めるのが相当である。

四  損害

1  治療費 金二五四万五二二八円

前認定のとおり、上室性頻拍症を除く原告の傷害の治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められるところ、その治療費の額が関西労災病院分二四一万一八二八円、高田外科分一三万三四〇〇円であることにつき当事者間に争いがない。

2  入院雑費 金五万六一〇〇円

前認定のとおり、原告は本件事故により合計五一日間の入院加療を余儀なくされたものであるところ、右入院期間の入院雑費としては、一日一一〇〇円の割合で計算した金五万六一〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

3  入院付添看護費 金一七万六〇〇〇円

証人関谷政代の証言によれば、本件事故による傷害治療のため、原告が関西労災病院に入院していた四四日間(昭和五九年七月一一日から同年八月一二日までの三三日間と昭和六〇年一月二五日から同年二月四日までの一一日間の合計)、原告の妻が付添看護していたことが認められ、かつ前記認定の治療経過に鑑みれば、原告は少なくとも右期間付添看護を要したものと認められる。そこで、付添看護費としては、右期間に限り、一日四〇〇〇円の割合で計算した金一七万六〇〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

4  通院交通費 金一三万二一〇〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証によれば、前記関西労災病院への通院交通費として合計金一三万二一〇〇円(通院手段等詳細は明らかでないが、当初の数回は自宅から病院までタクシーを使用したものと伺われるところ、前記の治療経過によれば、それもやむを得なかつたものと認める。)を要したものと認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。なお、原告主張の付添人の交通費については、本件全証拠によるも本件事故と相当因果関係のある損害と認めるに足らない。

5  逸失利益 金六一六万二九二八円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一四、第一五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一六号証、証人関谷政代の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時、いわゆるサラリーマン金融業を営む訴外日高産業株式会社に勤務し、一か月平均二三万六六一五円の収入と毎年七月(給与の一か月分相当)と一二月(給与の二か月分相当)に賞与をえていたこと、仕事としては、貸付け業務、不動産鑑定付随業務、督促業務等を担当し、自動車運転を伴う外回りの業務を行つていたこと、本件事故による傷害の治療のため、休業中の昭和六〇年二月一〇日前記のとおり発作性上室性頻拍症が発病し、会社の社長の勧めもあつて、現在もなお休業中であること、右休業期間中、原告は、同会社の社長の好意で毎月生活費として、同会社から金二〇万円の支払を得ているが、右は貸付金として処理されていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

前認定のとおり、原告は本件事故により昭和六〇年六月三〇日まで三五五日間休業を余儀なくされたものであるところ、右認定の原告の収入を基礎に原告の休業損害を計算すると、次の計算式のとおり、金三二三万四八一八円となる。

236615×12×355÷365+2×236615=3234818

そして、後遺症による逸失利益を、前認定の労働能力喪失率(五パーセント)、労働能力喪失期間(三七年間。ホフマン係数二〇・六二五)を基礎に計算すると、次の計算式のとおり、金二九二万八一一〇円となる(円未満切捨)。

236615×12×0.05×20.625=2928110

以上のとおり、本件事故による原告の逸失利益は、会計金六一六万二九二八円となる。

6  慰謝料 金三一〇万円

前認定の本件事故の態様、原告の傷害及び後遺症の部位・程度、治療経過、入・通院期間その他本件にあらわれた諸般の事情に鑑みると、本件事故により原告が被つた精神的苦痛を慰謝すべき金額としては、入・通院期間中のそれとして金一二〇万円、後遺症その他のそれとして金一九〇万円の合計金三一〇万円をもつて相当であると認める。

7  過失相殺による減額

以上1ないし6の損害額合計は、金一二一七万二三五六円となるところ、前認定の過失割合に従つて計算すると、過失相殺後の損害額合計は、金一〇三四万六五〇二円となる。

8  損益相殺

請求原因4(九)の事実は当事者間に争いがない。そうすると、原告はすでに金六四五万〇三〇四円の損害のてん補を受けたことになるから、これを右過失相殺による減額後の損害額から控除すると、金三八九万六一九八円となる。

9  弁護士費用

原告が本件訴訟を原告訴訟代理人弁護士に委任していることは本件記録上明らかであり、相当額の着手金・報酬を右代理人に支払うべきことは、弁論の全趣旨により認められるところ、本件訴訟の内容・経過、立証の難易・認容額等本件訴訟にあらわれた諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、金四〇万円をもつて相当であると認める。

五  結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、金四二九万六一九八円とこれに対する本件事故発生日の後である昭和六一年八月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判官 杉森研二)

(現場略図)

<省略>

(衝突状況図)

<省略>

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